バイクと私 #18(覚悟の遠出編)
2ヶ月ほど開いてしまいましたが、もう少しだけこのシリーズを続けようかと思います。
前回は重大故障で走行不能となり、修理後極めて調子が悪かったという話でした。
暫く近所を乗り回すうちに、徐々に調子が落ち着いてきました。
とは言えキック始動に時間がかかるようになったり、エンジン・ストールする回数が増えてきたりと、なんとなく以前とは調子が違うなという感覚はありました。
一番困ったのは、数km程度の短距離を走ったあとでエンジンを止めると、再始動が極めて困難になることでした。普通ならエンジンが暖まって調子が出てくる頃なんですが…
とは言え走行中に調子を崩すことなどなく、寧ろ走行中はとても40年前の旧車とは思えぬ好調ぶりでしたので、一度、思い切って遠出をしてみることにしました。
設定した目的地までは片道100km余り。途中の道は、車通りはそれほど多くなく、けど人里離れた山道ということもないところで、最悪でもJAFを呼ぶことは出来るだろうというルートを選択しました。
とにかく走行距離が20kmを越えるくらいまではエンストをしないように慎重に走りましたが、それを越える頃には自然と鼻歌が溢れてきました。心配事が一つ減りましたし、やはり何より走るのが楽しい!
大型バイクや車にはバンバン抜かれますが、速度を別にすれば開放感は原付も大型バイクも同じです。
折からの陽気と相まって、ほとんど休憩を採ること無く走り続けて2時間余で目的地にたどり着きました。
少しばかり観光し、昼ゴハンを食べ、さあ帰ろうというところで、同じ道ばかり走っても面白くないので別の道を走ろうと思い付きました。
ただその道は私も通ったことのない、ほとんど知らない道です。おまけに結構遠回りになります。
少し悩んだのですが、往路ではバイクもすこぶる調子が良かったこともあり、問題ないだろうと判断してそちらを走ることにしました。
その際、私は小さなミスを犯してしまいました。
走り出してすぐ、高速道路のような大きな高架橋に出くわしました。道路案内の標識は遠くの地名ばかりを標していて、目的地に向かうものなのかどうか分かりません。
てっきり細い山道だとお思い込んでいた私は、道を間違えたのかと不安になり、もう一度地図をチェックするべくスマホを取り出しました。
アクセルから手を離した瞬間、不安定化するアイドリング。そして…エンスト。
「あっ・・・」と思いましたがもう遅く、エンジンは沈黙してしまったのです。
道路の確認を終えてから再始動を試みる私。キックスタートをけれどけれどエンジンはかかりません。復路を走り出してから5km程度。よりによって、一番エンジンを止めてはいけない時期でした。
こうなってくると、ツーリング日和の陽気がただの灼熱に変わります。
眼の前を、大型バイクのツーリング部隊が走り抜けていきます。「バイク乗りはバイク乗りに優しい」なんてのは嘘だと毒づきながら、ヘルメットも脱いで汗を拭きながらひたすらキックを繰り返します。
それでもかからず…私は諦めました。
いえ、走ることを諦めたわけではありません。キックスタートを諦め、押しがけを行なうことにしたのです。
現場は、ほんの僅かなゆるい上り坂。上り坂を押しがけするのはつらすぎるので、一番上まで押して上がり、下り坂を駆け下りながら押しがけしようと試みたわけです。
一回目。坂の下まで着いてしまいました。もう一度、上まで押して登ります。
二回目。始動しました!が、ギヤ操作を誤ってエンストさせてしまいました…もう一度坂の上まで。
三回目。遂に始動に成功!しかし一息つく暇はありません。
休んでるとまたエンストしてしまいます。右手をアクセルから離すことなく車体をUターンさせ、すばやく跨って、回転数を落とすこと無く走り出します。…飲み物を飲む余裕すらありません。
安堵感よりも、喉がひりひりするほど乾き、脚がクタクタに疲れた感覚が勝ります。それでももう一度止めてしまうと元の木阿弥なので、とにかく走り続けます。
ようやっと、これくらい走れば一旦エンジンを止めても大丈夫だろうと思った頃、その道は思ったより山深いところを走っていました。
もしここでエンストしてしまったら、もしここでまた再始動に手間取ったら、大変なことになってしまうかも知れない…それは絶対避けたい!
結局私は休憩を諦め、ようやく休憩を出来そうな道の駅に出た時は、すでに100km近く走っていたのでした。